「西江雅之の写真—地球は我が家」展のお知らせです。

双ギャラリーでは2月28日(金)より、「西江雅之の写真—地球は我が家」を行うこととなりましたので、ご案内いたします。
文化人類学・言語学者として世界を旅した西江雅之(1937〜2015)は、双ギャラリーが1985年にオープンした当時からのお付き合いがあり、ギャラリーに携わる様々な人々に多大な影響を与えた人物です。
専門の文化人類学、言語学のみならず、実に多彩な知識と圧倒的な語彙、まるでパフォーマンスのような西江の話に時を忘れて引き込まれたのが思い出されます。

西江は学者としての活動の傍ら、数多くの美しい写真を遺しました。双ギャラリーでは2011年に写真展を行っています。没後5年を迎え、今尚色褪せない西江の世界をご紹介いたします。
今回の写真展では、その長い旅路の中で西江が出会った景色を感じさせる、もっとも印象的な作品を選びました。
西江雅之の旅の足跡は、20代のはじめ、早稲田大学在学中に参加した「アフリカ大陸縦断隊」にさかのぼります。現在のモザンビークから南アフリカ、タンザニア、ケニアなどを経て、「悪霊も逃げ出す土地」といわれたソマリアを単独で縦断。さらに、ジブチからエチオピアへと足をのばし、海を越えてアラビア半島にわたり、イエメンのアデンへ。アデンやソマリアでの旅は、10代半ばの西江がとりつかれるようにして読んだというフランスの詩人ランボーが詩を捨てた後に暮らした世界とも重なって、とりわけ強い印象を残したようです。
人生を変えたアフリカとの出会い。その後、半世紀あまりにわたって、ピジン・クレオール諸語(異言語接触により形成されることがあり得る新しい言語)の日本における先駆的研究者として知られた西江が滞在した土地は、アフリカ大陸、インド洋、カリブ海域、南米、オセアニアなど、各地に広がっています。人間がつちかってきた伝統的な暮らしが、かつてないほど急激に変化した時代。図らずも、その目撃者となった西江の眼がとらえた、かけがえのない一瞬を感じていただければ幸いです。

尚、今回のプリントはアーティストの多田正美が行いました。多田は西江と長い親交があり、その人間性に魅せられてきました。彼の技術と配慮によって、もとのフィルムの味わいをいかした素晴らしい写真が生まれています。
また展覧会初日16:00より、文化人類学者の加原奈穂子さんによるお話があります。西江雅之と世界各地で行動を共にした加原さんより、貴重なお話が沢山伺えるのではないかと思います。
是非ともご高覧賜りますよう、ご案内申し上げます。



西江 雅之(にしえ・まさゆき)
1937年、東京生まれ。文化人類学・言語学者。早稲田大学政治経済学部卒、同文学部大学院芸術学修士課程修了。フルブライト奨学生としてカリフォルニア大学大学院で学ぶ。東京外国語大学、早稲田大学、東京藝術大学などで教鞭をとった。世界各地で土地の人びととの交流を重ね、言語と文化の研究に従事。生活と研究の両面で独創的な態度をつらぬき、飾り気のないその人柄から「裸足の学者」と呼ばれる。現代芸術関係での活動も多いほか、美しいエッセイの書き手としても知られ、多くの高等学校国語教科書に作品が採用されている。2015年6月、77歳でその生涯を閉じる。
著書:『花のある遠景』『異郷の景色』『旅人からの便り』『ヒトかサルかと問われても』(半生記)『アフリカのことば』『ことばの課外授業』『マチョ・イネのアフリカ日記』『伝説のアメリカン・ヒーロー』『異郷日記』『食べる』など。写真集に『花のある遠景』『顔!』がある。
 
多田 正美(ただ・まさみ)
現代美術の分野で既存のジャンルを超えた試みを数多く発表。写真は「銀杏の樹を365日、同じ時間、同じ場所で取る」が出発点である。音は「GAP」というグループでの活動から今日まで即興演奏を続けており、音と身体と場との出会いであるその試みを‘Sound Encounter’と名づけている。1999〜2000年、文化庁海外派遣でオランダに滞在。2006年、Art-Full Nepal で西江雅之氏をネパールに招聘。著作に『写即音興』『風景は写真か』、CD「空」「存」「異」「音」「無」、写真+ビデオ「七十二候シリーズ」(現在進行中)などがある。


西江雅之さんとの出会い
 最初の出会いから33年が過ぎています。吉祥寺の双ギャラリーで、西江さんの「目からウロコが落ちる話」をごく少数の人と共有した場に居合わせた一人でした。西江さんは、我々がとらわれている思い込みを一瞬にしてひっくり返して見せてくれる。本当に驚きました。人間とは複雑で、そして実に単純なのです。人間とは何かという問いへの的確な答えを、西江さんはいつもさらりと見せてくれました。
西江さんと海外への旅を共にしたことは一度。2006年、ネパール・カトマンズでの私の展覧会の折でした。いつものシャツとズボンに鞄一つの身軽さで現れた西江さんは、アートに関するレクチャーを行い、現地の聴衆を大いに沸かせました。
写真は「見えることと見えないことのすべて」であり、たとえその意味を知ったとしても、説明はつけられない。今も記憶に残る西江さんのことばに、「伝統は守ろうとすると変わってしまう」というものがあります。それは写真にも言えることで、「写真を説明しようとするから本来を見失ってしまう」のではないでしょうか。
説明にとらわれず、まず西江さんの写真と出会い、驚くこと。そこに、すべての原点があるように思います。

多田 正美


西江雅之の写真—地球は我が家

2020年2月28日(金)〜3月15日(日)
13:00〜18:00(日曜日は17:00まで)
金・土・日曜日のみのオープン
2月28日(金)16:00より、加原奈穂子氏(文化人類学者)によるお話があります。
上記イベントは、新型コロナウィルスの状況を鑑みて中止とさせていただく事となりました。尚、展覧会は予定通り開催いたします。