銀河鉄道 77

01
島州一の Tracing-Shirt のシリーズも7年目に入った。
年を数えるごとに年々若返ってくるような感覚があるが、今年喜寿をむかえる。
瑞々しい絵から受ける感覚は年齢を超えている。年齢とは相対的なものか。
03
今度のシャツには、少なからず覚悟と言うものがあるような気がする。
東日本大震災以降未曾有の大災害に、作家として描く事に躊躇というか、疑問を持ち始めていた頃には、半年ほどたっていた。そこで、はたと思い描いたのが、亡き父親の形見の黒いネクタイであったと言う。黒いネクタイが、シャツの上をのびやかに走り回る姿を、宮沢賢治の銀河鉄道を重ね合わせていたと作家はいう。父親が乗り移っているように、のびやかで、闊達で、見ていると黒いネクタイの上を超スピードで駆け抜けていく様を、われわれは思わず連想する。これは島州一の覚悟であり、一歩先に歩を進めた作家の姿であろう。
02
Tracing-Shirt のちょっとした作品過程の説明をしておこうと思う。
7年前から何度となく登場してきたシャツたちは、何時も島が着ているシャツばかりである。色々な形のシャツはテーブルに広げられ、それをトレッシングペーパーで克明にトレースする。それを作品となる紙上に、カーボン紙を挟んで更にトレースする。縞模様もタグも克明に、そして汚れまでも。フリーハンドで。そして島は言う。これはシャツではなく浅間山だと。毎日見上げる浅間山は彩りを変え表情を変える。メタファーの浅間山である。
06 0708
この作品にどんな時間が流れるのか、作家にしか解らないが、そこまで真摯に描き、写し取ると言うことで、この作品に強度が生まれ、作家の思惟が作品の中へ沈み込み、そこから静かに沸き出してくるのだと、私は思う。
04
ここでキャンバスに触れよう。
シャツのトレースなどのように 厳格なものはないが、のびやかな開放感が前面に漲り、見ていると思わず微笑みが浮かぶようだ。しかしやはり規制はあり、3号と0号しか描かない。今回の絵画のモチーフは人と椅子であると言う。アイロニカルに椅子に絡み付くイメージで人が配置されている。抽象的なイメージは強いが、具象的な形も見えてくる。 島のライフワークとも思える作品群である。
05